【月の刻-軍周辺-】

 

ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 

教会の18:00を告げる鐘が、遠くで響いた。

 

ミザリーとアル、そしてオリビアは帝国軍周囲を警戒しながら歩いていた。

白菊のような、3つの白い頭がぴょこぴょこと揺れる。

 

「守りはオリビアちゃんが。私とアルさんが前線で戦う。作戦通りにいきましょう」

 

アルはそれに「は〜い」と気の抜けそうな返事をし、オリビアは緊張しながらぎゅっとぬいぐるみを握るのだった。

 

ぐらん。

地面が波動で揺れる。

 

「おっと」

「オリビアちゃん、気を付けて」

 

割と新しく整備されている軍周辺の地面が、生きているかのようにうねった。

 

「貴方とは会いたくなかったのですがね」

ミザリーは目の前の人物へと問いかけた。

「それは拙も同じです〜。でも、華翠として、お仕事をしなきゃいけません」

 

3人の前に現れたのは、唯。そしてその後ろに立つのはレイモンドだった。

 

「...おにいさま。けど、リヴィは...神父さまを殺した人間を、許さない...。探すの...」

 

そのレイモンドの顔を見たオリビアは、再びぎゅっとぬいぐるみを握りしめながら呟いた。

 

オリビアの顔を見たレイモンドは、少し柔らかく笑ったかと思うと、再び真剣な眼差しへ戻った。

 

「街の爆破は君たちだな。ADELAは随分と派手好きなようで困った。関係ない人を巻き込むのは感心しないな」

 

優しい口調の裏には怒りが込められて居るようで、その姿は獲物を定めた白豹のよう。

 

「関係なくなどありません。ヴァリスの為の世界には必要な犠牲と私は考えます」

 

ミザリーは淡々と答えた。

 

「貴方たちも、自分たちの安寧の為なら見ず知らずのヴァリスの家族だって殺せる。やっている事は変わりません」

 

ただ、と少し目を伏せながらミザリーは続けた。

 

「殺されたから殺す。殺したから殺されてもいい、などと言う考えに賛同しているわけではありません。だから今日、ここでこの輪廻を終わらせるのです。私たちの手で」

 

ミザリーが己の愛剣をぎゅっと握った。

 

「いざ陣乗に」

 

キィン!ミザリーと唯の武器同士がぶつかり弾ける。

 

「拙は、暴力は嫌いです。話し合いで解決、はやっぱり出来ないんでしょうかッ」

キィン!再び刃が交わる。

ミザリーは唯と少し距離を取ると、再び愛剣を構える。

 

「我がボスの意思に従うのみ。話し合いをすれば、我々ヴァリスへの偏見と差別的思考が全て無くなるのでしょうか。我々ヴァリスも人間と同じ幸せの権利を頂けるのでしょうか」

 

その質問に、唯は口篭る。

唯にとってその質問は答えに迷うものだった。

ヴァリスを親に持つ唯にとって、偏見、差別、それは他人事ではなかったからだ。

 

生暖かい風が吹く。それが、唯の様々な感情を乗せ、空へと運ぶ。その、生暖かさが、唯の心情を表しているかのようだ。唯は、どちらにも、完全になれはしない。

 

「...無言、それが答えなのですね。だから、話し合いなど意味を持たないのです。人間の支配下では、平等は得られない。貴方もそう思いますよね。貴方は、私と、同じなのだから」

 

唯は、ミザリーのその言葉にもひっかかったが、何よりもオリビアとアルと対峙しているレイモンドの事が気になって仕方無かった。

 

「拙と、同じ...?何を言っているんですか〜?貴方はヴァリス、拙とは違います。拙は...そちら側には、なれないのです」

 

ちらり、唯は再びレイモンドのほうを見る。巨大化させたくまさんに乗ったオリビアとアルを追いかけていくレイモンドと、どんどん距離が離れる。

 

その方向には歌劇場。すぐそこの施設のため距離はさほど離れていない。だが、バディ同士、共に戦うのが最善。それに、今のレイモンドなら、尚更。

 

唯の一瞬の迷いを見てか、レイモンドが遠くから声を響かせる。

 

「無線でここにこれる幹部を呼んだ。すぐに応戦にくる。あの2人のヴァリスはこちらに任せてくれ。何かあればすぐに俺も駆けつけよう」

 

唯はそれに「拙も、拙もすぐにそちらにいきます」と返事をするのだった。

 

キィン!

再び刃が交わる。

 

「先程、同じではないと言いましたね。いいえ、同じなのです。私も、貴方も、人間とヴァリスを親に持つのですから」

「え...」

 

唯の大きく開かれた目には、自身と同じ、でも違う、ちょっとだけ羨ましいくらいに真っ直ぐな瞳をした少女だけが映るのだった。

 

【月の刻-歌劇場-】

 

レイモンドはオリビアとアルを追って歌劇場へと来ていた。

しんとしたその空気は少し冷ややかで、人っ子1人いない。

 

円形の歌劇場の2階の観覧席を足音を忍ばせ歩く。ここに逃げ込んだのは確かのはずなのだ。小柄なオリビアは尚更、隠れるのに絶好の場所。

 

「かくれんぼがしたいのかな、お嬢さんたち。悪いが、罪を重ねた君たちを国は許してはくれないようですよ」

 

普段よりは冷たいが、それでいて柔らかいレイモンドの声が歌劇場の中へ響き、こだまする。

 

「俺も平和主義者だからね、お嬢さんたちを殺したいという訳じゃないんだ。けど」

コツン!と少し大きめな音と共に現れた茨をさっとよける。

 

「君たちに殺意があるならば、これは仕方の無いことですよね」

 

「ちょぉっとー、逃げないでよね。楽しくなーい」

客席の隙間からぴょこりと顔を出したアルはぶつくさと文句を言いながら後方座席へと飛び移る。

 

アルの茨を避けたレイモンドへすかさず巨大化したくまさんが大ぶりのパンチを仕掛ける。だが、レイモンドは軽々とかわした。

 

「おにいさまのこと、嫌いじゃない。けど、リヴィ、...」

 

オリビアはその後の言葉に詰まった。幼いオリビアにとって、好印象のレイモンドへ殺意をむき出しにするのは難しいことだ。

 

「ほらよっと!」

「ッ!」

 

その隙にアルが杖を振り、レイモンドの左腕をかする。そこからシュルシュルと茨が生え、左腕を絡める。

 

しかし痛がる素振りもなくレイモンドはその茨をちぎりとる。

 

「あれれ、おっかしいなぁ?もしかして隊長さん、痛覚ないの?」

 

アルは首を傾げた。それもそのはず、レイモンドの左腕のことは、華翠と、その左腕を奪ったニーナしか知らないのだから。ニーナからその事実を聞いていないADELAにそれを知る術はない。死人に口は無い。

 

「お嬢さん、先程から随分と楽しそうだね」

「えー?当たり前じゃん!華翠の隊長と戦えるんだよ!ずっとこの瞬間を待ち望んでいたんだから!」

 

くくく、と楽しそうに笑うアルにレイモンドは冷徹な表情のまま、己の刀を変化させる。

 

「隊長さん、もっと僕を楽しませてよ!」

 

コツン!と強く床を叩く。茨がレイモンド目掛け伸びる。レイモンドもそれをするりと躱すと自身の刀の刃を伸ばし、アルへ攻撃する。

 

数回の攻防。その刀がアルの右腕、腹部、左足、と少しずつ傷を増やす。

 

「やっぱ強いね!あは!楽しいよ!!」

 

アルが身をかがめ、レイモンドの足元へ潜り込む。そして杖で思い切りレイモンドの右脚を切りつける。

 

切りつけたところから茨がめきめきと伸びてレイモンドの脚を絡める。

 

「ッ!」

「いいじゃんいいじゃん!面白くなってきた!その硬い表情はいつ変わるのかな?」

 

その2人へ介入する隙を見つけられずただ見ていただけのオリビアだったが、巨大化したくまさんはそうでは無かった。

 

オリビアにとっての命の優先度は自身より仲間の方が上なのだが、くまさんにとっての最優先はオリビアの命なのだ。

 

「え、」と驚くオリビアを肩に担ぎ、1階へと飛び降りる。

「まって、言うことを聞いて...リヴィは...リヴィは、みんなの役に立ちたいの」

 

くまさんは言うことを聞かず、歌劇場1階の舞台近くまで走る。

それをみたレイモンドは、先程から自身の周りを右へ左へ飛び回っていたアルの動きを読み、刀を伸ばしアキレス腱を狙う。

 

レイモンドのその刀は鈍い音を立てながら、アルの両足のアキレス腱をしっかりと切った。

 

「あぇ、」

 

アルは軽々しく動き回っていたその体をドサッッと勢いよく地面へ擦り付けた。

 

「あは、あはは、殺すの?殺せよ!こんなに楽しいのは久しぶりだ!」

アキレス腱を切られようと、杖を使える限りアルにまだ勝算はある。「楽しくなってきたじゃん!」不利な状況にも関わず楽しそうなアルへ、レイモンドの刀が振り下ろされる、...ことはなく、レイモンドはオリビアを追って1階へと飛び降りた。

 

「くそ!ふざけるな!僕との勝負はまだ終わってないでしょ!どこいく!」

「動けないお嬢さんはそこで見ていてください」

「っく...!!」

 

なめらかな受け身で1階へと降りたレイモンド。もちろん、視線の先にはオリビアだ。

 

「おにいさま...」

 

オリビアを守るのは鉄壁のくまさんだ。今の軽傷を負ったレイモンドでは、どちらが上かはわからない。

 

「お嬢さん、俺は、お嬢さんに話さなければならないことがあります。そう、神父のこと」

 

"神父"その言葉を聞いたオリビアの瞳が大きく開かれる。

オリビアとレイモンドの間にくまさんが立ちはだかる。

 

「そのまま聞いてもらって構いませんよ。お嬢さんは神父を殺した相手を探しているのですよね」

 

歌劇場の舞台上。ライトを全身に受けたレイモンドは、冷ややかに、言葉を続ける。

声が、こだまする。

 

「あれは、俺です。あの教会の神父を殺したのは、俺ですよ。任務でね、仕方がなかった」

 

「あ、え...おにいさまが...神父さまを...?」

 

オリビアは震える両手をぎゅっと握りしめ、瞳からぼろぼろと大粒の涙を流す。それは、年相応の少女の流す無垢な涙。

 

しばらく、現実を受け止めきれないオリビアだったが、レイモンドの嘘偽りないその声色が、現実へと引き戻す。

 

「...っ、許さない、嫌い...おにいさま...あなた、あなたなんて、だいきらい...!」

 

オリビアの感情を汲み取ってかくまさんが、大ぶりのパンチを繰り出す。が、レイモンドにとってその攻撃はかわすには容易いものだった。

 

再び、大ぶりのパンチ。舞台上の床がめきめきと凹む。

 

「だいきらい、神父さまをころした、あなたなんてだいきらい...っ!!」

オリビアは大粒の涙をその小さな手で拭いながら怒りを露わにする。

 

「...それでいい。いいんです。憎い相手を恨むのは至極当然のことなのですから。俺も、俺へ殺意を向けていないお嬢さんと戦うのは胸が痛みました」

 

くまさんの攻撃をするりとかわしたレイモンドは、タタタッと舞台上を駆け抜ける。

 

「俺のことは嫌いで構いません」

 

ぐちゃり。

 

レイモンドの伸びた刀身が、オリビアの腹部を貫いた。

 

【月の刻-歌劇場-】

視点:オリビア

 

いたい。...いたい。

 

オリビアの腹部からは、血がボタボタッと床へ落ちる。

 

ゆるせない、ゆるせない。

 

神父さまをころした、あなたをリヴィは、ゆるさない。だいきらい。

 

ぐたりと倒れ込んだオリビアをレイモンドが抱きとめ、床へそっと下ろす。

 

「さわらないで...あなたなんて、だいきらい...」

 

やめて。

 

「俺のことは嫌いで構いません。そうで無ければ俺のしたこの行為に別の意味が生まれてしまいますから」

 

オリビアは、胸元の十字架をぎゅっと握りしめる。

 

あぁ、だいすきな、神父さま。リヴィは、神父さまをころした、人間をみつけました...。

 

リヴィは、がんばりました...。

 

だいすきな、神父さま。リヴィもいま、そっちに、いきます...。

 

あぁ、神さま、お月さま。リヴィを、神父さまのところまでつれていってください。

 

おねがいします。神父さまにあいたいです。

 

神さま、お月さま。おねがいです。どうか。

「無垢なお嬢さん。どうか、あの神父のもとへ行けますように。お嬢さんが恨みもなにもない世界へいけますように」

 

レイモンドがオリビアの瞳を手でそっと閉じさせた。

 

まるで、ひとつの歌劇をみているかのように。

 

オリビアは、安らかな顔で、意識を手放した。

 

 

オリビアの月の欠片が砕けた。

 

【月の刻-帝国軍周辺--】

 

「え...」

 

それは少し前に遡る。ミザリーの口から伝えられたその言葉を唯は未だ飲み込めずにいた。

 

「私も、人間とヴァリスの間に生まれた子なのです。だから、ずっと、少し親近感を感じていました」

 

ミザリーと唯の間を、再び生温い風が通り過ぎる。

同じ境遇のはずなのに、立場の違う2人を真っ赤なお月様が嘲笑うかのように見下ろす。

 

「軍人さん、いえ、唯さん。貴方と知り合えて私は嬉しかったんです。お友達が出来た。"ミザリー"のことだって」

 

ミザリーは、やわらかく笑う。

 

「そうなんですね〜。お揃い、ですね」

 

唯の反応は、そこまで大きなものではなく、それは達観している彼女だからだろう。ミザリーのその立場が、唯が喉から手が出るほど欲しかったものだったとしても。

 

「でも拙は、"約束"があるので、死ねません。ミザリー様を殺したいわけでもないですぅ」

 

「ですが、ここは、戦場。お互い手加減をせずに戦うのが礼儀でしょう」

 

キィン!2人の刃が交わる。

 

「ッ!」唯の三又槍がミザリーの腕へ小さな傷をつける。「ぐぁっ!」しかし、唯の月のカケラの能力を使えばその傷を広げることは容易いものだった。

 

ハンデが大きすぎる。唯のその180cmもある大きな槍では、ミザリーが唯自信に傷をつけるには、少々分が悪い。ミザリーの腕からボタボタ、と血が流れ落ちる。

 

ミザリーは、タタタッと近くの花壇まで走る。そこには鮮やかなクロッサンドラの花。

ミザリーはそれを長めの槍へ変え、再び唯へ攻撃を仕掛ける。ギィン!という音と共にミザリーの一撃は唯の能力で増長して自身へ跳ね返った。

 

ズシィッと数メートル飛ばされ、ミザリーは顔を地に伏せた。

 

「クロッサンドラ。皮肉ですよねぇ〜。花言葉、知ってますか〜?"友情"ですよぉ。拙たちに、ぴったり。ですよねぇ」

 

カツン、カツンと唯はミザリーへ近づく。

 

「カハッ、友が戦場で敵になることは、有り得ない話ではありません。これも全て、運命、なのですから」

 

拙はミザリーの"運命"という言葉にぴくりと眉を動かした。

 

「お月様が決めた運命ですか〜。...じゃあ、じゃあ、拙と同じ貴方がそちら側で、拙が、拙は、そちら側に行けないのも、全て"運命"って言うんですかぁ...?そんなの、そんなの意地悪ですよねぇ...」

 

カツン、カツン、唯は1歩、また1歩地へ伏せているミザリーへ近づく。

 

「大丈夫ですよ、拙は約束は必ず守ります。だから、どうか安らかに」

 

唯が自身の武器を大きく上へ振りかぶる。

 

その時、唯は"見て"しまった。

 

「...ボス、様...?」

 

鮮やかな鮮血がミザリーの服を濡らした。

 

 

【軍周辺-月の刻-】

視点:唯

 

「ぁ.....ぇ........」

 

ミザリーはクロッサンドラで生成した槍を花びらへ戻すと同時に己の髪へ飾っているバラでナイフを生成した。そして、大きく振りかぶっていた唯の胸元へ、しっかりと、ナイフを刺した。

 

ミザリーの服を暖かい鮮血の返り血が濡らす。

 

バタリ、と倒れ込んだ唯は、はくはくと呼吸を繰り返す。バラ1輪で作ったナイフでは致命傷には程遠く、けどもしっかりと胸にナイフは突き刺さったままである。

 

今すぐに手当をすればまだ間に合う。けども、近くに仲間はいない。これが、"運命"なのだろうか。

 

「ぁ...ぇ...せつ、は、...」

 

この胸に刺さったナイフを抜けば更に血が吹き出すだろう。

 

痛みで涙が滲む。いたい。痛い。

 

空を見上げれば、真っ赤なお月様が拙を見下ろしている。血を塗ったような赤はボス様を想像するには、簡単だった。

 

目を閉じる。

 

「...ボス、さま...」

「なんだい」

 

そして、ゆっくりと開ける。

ボス様の幻でも見ているんですかねぇ。ボス様が、拙を抱き上げているなんて。こんな、夢にもみたことが、現実で有り得るはずがありません。

 

「ボスさま、拙とのやくそく、守ってくださいますよねぇ」

拙は、この人の隣なら、この人のそばなら、きっと、1番幸せになれるのに、なんて思っても今さら遅い。

 

ミザリー様が、なれたように、拙だって、この人のそばで、幸せになりたかった。拙だって。

 

「そうだね、唯。君を終わらせるのは俺だよ。約束、だもんね」

 

ルアが優しい声で続ける。涙を流す唯の頬をそっと撫で、額へ口付けをする。

 

「約束...守ってくださいねぇ...」

 

唯は、その目でしっかりとルアの顔を見る。そして、微笑みながら瞳を閉じる。

左手をルアの左手と結ぶ。固く、しっかりと。

ルアは番傘から刀をだすと、唯の心臓へ、ひとつき、確かに突き刺した。

 

あぁ、ありがとうございます。拙を殺すのが貴方様で、ほんとうによかった。

 

 

「あぁ、我が同胞よ。君が月の元で幸せになれますように。生まれ変わったら、必ず、君がこちら側へこれますように」

 

 

そして、唯の唇へ小さなキスをする。

 

唯の月のカケラが砕けた。

 

【月の刻-軍周辺-】

 

それからどれくらいの時がたっただろう。いや、そんなに時間はたっていないように感じる。

ミザリーが突き刺したナイフはバラの花弁となって散った。

 

ルアは唯を抱き立ち上がる。

 

「...ボス」

 

それを黙って見ていたミザリーと、ルアと一緒にこの場へきたラブもボスの次の指示を待つように、目線を送る。

 

「俺は約束があるからね。...今から唯を...食べるんだ。彼女との約束を破る訳にはいかない」

 

ラブは、「それじゃあ、」と言いかけ、口を固く結んだ。唯の亡骸を抱くルアの眼差しが、まるで仲間をみているようで、なんだか、それを邪魔する訳にはいかないと感じたからだ。

 

「君たちは、みんなと合流して状況を確認して。ラブ、無線機は持っているよね。俺も、約束を果たしたらすぐにそちらへいくから」

 

ぐたりと動かなくなった唯をみて、ミザリーは両手を合わせた。この、最悪の輪廻が今日で終わりますようにと、月に願った。

 

月はそんなことを気にもしていないのか、満面の笑みで見下ろしていた。


シナリオ▶︎小林キラ

スチル▶︎うぐいす/ふろ/ゆう/しじみ/一義的/小林キラ