【○○地区:小さな教会にて】
朝方。
「いや〜ありがとう、リヴィ。月灯祭が近づくと教会に訪れる人も増えてさ」
そう呟くのは、ツインテールの成人、ではなく、教会を管理する老神父だ。
「うん...大丈夫。お手伝い、楽しい」
呼びかけられたオリビアは嬉しそうにニコリと返事をする。
「この姿に化けていると、心まで老けた気分になるよ...」
トホホ、と笑みをこぼすラブはよっこらしょ、と箱を持ち上げた。
そろそろ教会が開く時間だ。今日も神へ祈りを捧げる数多の市民が訪れることだろう。
この国の神への...月への信仰心というのは、古くから固く、閉ざされることはない。人々は神を心の拠り所にし、頼り、崇め、縋る。
何かあれば神のせいだ。責任を他人になすりつけるのは人間の、ヴァリスの生物としての欠点だろう。犬や猫に比べ、この生物は責任転嫁が得意だ。
今日も忠実で、愚かな崇拝者が教会のドアを叩いた。
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【商業区:馬車にて】
2人は馬車へ乗っていた。
少し薄汚れた、古めの馬車。乗っているのは恐らく下級貴族だろうか。そのくらいの、少しみすぼらしいくらいの馬車。
その馬車に乗る男の名前はミハイル。ピンクの髪をした、中央教会に務める神父である。そして、その男の向かいに座るのは私服のロベリアである。
「ア...ミハイルさん、すいません、私まで馬車に乗せて頂いて...」
ロベリアはぺこりと神父へと頭を下げる。
「いや、いいんだ。行く宛が同じ方向なら悩める民を拾うのも、神の教え。だからね」
神父は気にしなくていい、とロベリアの感謝を受け取った後、御者へここで大丈夫だよ、と声をかけた。
「...?随分と遠い場所で降りるんですね?」
「うん。少し街の様子を見たくて」
そう返すとミハイルは御者へ料金を支払うと馬車をおりた。
「お嬢さん、料金は払っておいたから好きなところで降りるといい。いつかまた縁がありますように。良い一日を」
神父は深く頭を下げると街の方へ歩いていった。
「...今日、雨、降らないといいな...」
ロベリアは空を見上げながら独り言をボヤいた。少し曇った空が雨の匂いをかすかに感じさせた。
雨は出会いの匂い。
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【○○地区:小さな教会にて】
時はすぎ夕刻。
ロベリアはとある教会を訪れていた。そこには老神父と幼い少女。
「まさか、たまたま通りかかった教会に知り合いがいるなんて...思わなかったです」
ロベリアは老神父が入れた紅茶を飲みながら嬉しそうに微笑む。急な雨に焦って入った教会で思いのほか手厚な歓迎を受けていた。
雨は出会いの匂い。
「それに...お茶までご馳走様になってしまって...」
ペコペコと頭を下げるロベリアのテーブルへと、皿に乗ったクッキーがのせられる。
「あら...ありがとう。お手伝いしているのね。偉い偉い」
ロベリアはクッキーを配達してくれたオリビアの頭をよしよしと撫でた。オリビアはそれに少し照れたように頬を染めると老神父の後ろへと隠れてしまった。
「すまないね、この子は少し照れ屋さんで」
本当はすごくいい子なんだよ、と老神父はオリビアの頭を撫でた。
「いいえ、...ところで、雨...全然止みませんね...結構強いみたいですし、停電とかしないといいですけど...」
雨は出会いの蛹ゅ>。
トントンッ。
扉を叩く音だ。
「どなたかな?」
老神父の返事が聞こえるとノック音の主はギィと扉を開けた。
「すいません、急な夕立に会って...」
そこにはロベリアが今朝であった、ミハイルという名の神父が居た。
「おや、お嬢さんもここにいたのですね。すいません神父様。雨が止むまでしばらくここを貸していただけませんかね」
ミハイルは肩にのった雨水を払いながら老神父へ視線を向ける。
「もちろんいいとも。君たちの他にも何人か雨宿りに使っておる。1人増えても変わらん」
雨は蜃コ莨壹>縺ョ蛹ゅ>?
優しい郎神父に甘え、2人はしばらく教会にて雨宿りをするのだった。
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【少し月が登り始めた時刻】
「それでは雨も止みましたので私はこれで...神父さん、ご馳走様でした」
ロベリアは教会を後にしようとしていた。
「本当にいいのかい?もうこんな暗いし、女性1人と言うのは...」
ミハイルが心配そうに話しかける。ミハイルはここの老神父のことが随分と気に入ったようで、しばらくこの教会に滞在して信徒と交流をするようだ。
「いえ、大丈夫です。実は近くに宿をとっていたんです。私はそちらに泊まりますので...!」
その言葉をきくと老神父はそうかい...と少し残念そうに眉を寄せた。
「簡易的な寝床で良ければすぐに作れるんだがのう...」
その言葉に感謝の意を述べ、ロベリアは教会を後にした。
「それでは気をつけて。神の御加護があらんことを」
髮ィ縺ッ蜃コ莨壹>縺ョ蛹ゅ>?
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【○○地区:街の中心部】
「...特別怪しい様子も無かったし、あの老神父さんも優しかった。あとはアシェルくんがどう見るか、だね...」
ロベリアは街灯で照らされた街路樹を歩いていた。その姿は私服ではなく、見慣れた華翠の制服である。
「うーん、普通の教会、だと思うんだけど...なにもヴァリスが神父に化けているとは限らない、もしかしたら信徒の中にいたのかも...」
初めての潜入任務にもんもんと考え事をしていたロベリアは周りが良く見えていなかった。
バンッ!!
刹那。
1発の銃弾がロベリアの脇腹を直通する。
「え...」
ロベリアが振り向くとそこにはツインテールの神父のような格好をした人影が。顔ははっきりと見えない。
ぽたり、ポタリ。脇腹からは血が滴り落ちる。
なぜ、誰が、まさか、ヴァリ____。
喉から声は出てこず、痛みに耐え絞り出したような声しか漏れてこなかった。
視界がどよりと滲む。
足元に視界を落とせば、そこには小石。ロベリアはそれを掴むと銃音の方向へ向かい、投げつけた。
ロベリアが月のカケラの能力を使用し投げたその小石は、もはやただの小石ではなく、銃弾そのもの。
しかし痛みに耐えながら放つ一撃など、ツインテールの神父は容易く避けてしまった。
「(い、いそいで、止血しなきゃ...止まれ、止まれ...!)」
血の量が多すぎる。恐らく、急いで止血をしなければ、命が尽きるのも遅くはない。
誰か、誰か近くに、アシェルくん________。
「おいこっちだ!!」
声は少し遠くから聞こえる。
「幹部だ!ロベリアさんがやられてる!!お前ら救援要請だ!!」
そこには銃弾の音をきき、駆けつけた華翠所属の一般兵達がいた。
「あーあ、応援がきちゃった、もう少し遊びたかったけど...仕方ない、また今度、にしようかな。任務は達成したし」
ロベリアは男のそのセリフが耳にかすかに入るほどしか意識が残っていなかった。
「(意識が、まさか、銃弾に毒を______)」
男はにやりと笑うとツインテールを揺らしながら一般兵が向かってくる方向とは逆へ歩き出した。
「じゃあ、『また』ね。ロベリアちゃん♪」
なぜ、私の名前を知っているの...?
その疑問は声にはならずロベリアは意識を手放した。
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【その頃:農村地区にて】
セツキは部下数名を引連れ農村地区に来ていた。
農村地区に住む人々は商業地区等に比べ警戒心が薄く、夜でも1人で出歩く者が多い。
そこを狙うヴァリスの犯行が少なくは無いのだ。
農村地区の中でも特別栄えている小さな街。セツキは今日はこの村にターゲットを搾ったようだ。また今日この街では伝統的な豊穣祭がひらかれる。祭りごとには事件が付き物だ。
少し高くなっている丘から街を見下ろす。酒を飲んだのか楽しげに話す者、星空を眺める者、牛舎で仕事をする者、中央広場で踊る者...。
「油断したとき、平和に慣れた時が1番危ないんだ」
セツキのその独り言を聞く者はいなかった。空高く輝く月だけがその言葉を吸い取り、光り輝いている。
「きゃーーー!!」
15時の方角。少しの人だかり。中心には人が倒れている。
_______ヴァリス。
その集団の中にヴァリスがいることは間違いない。倒れた人の首元からはたらりと赤い物が流れ出しているのが見える。
早くヴァリスを討伐しなければならないというのに、人だかりのせいでヴァリスを捉えられない。無闇に攻撃し一般人を巻き込む訳には行かない。
「くそっ...」
広がる人だかりのなかで、ひとり、またひとりと人が倒れていく。
これ以上犠牲者を増やしたくないというのに。
混乱がまた混乱を呼び、ますますヴァリスを見つけることが困難になる。
落ち着け。標的に標準を合わせさえできれば自動追従出来るのだ。焦る必要は無い。
恐らく敵は複数人で行動している。1人ずつ潰していけばいいだけの話。
1人のヴァリスに狙いを定める。標準を合わせて、引き金を_______引く。
パァンッッッ!
追従した銃弾がヴァリスの頭を貫通する。
そうして落ち着きを取り戻したセツキはひとり、また1人とヴァリスを討伐していく。
市民の誘導は一般兵が行っているが、もうしばらくかかりそうだ。
「逃げられる前に全員討伐してやる」
セツキがそう意気込みもう一度スコープを覗いた瞬間。
「背中ががら空きだぜ、ヒーローさん」
おそらく、背中には刃物をもったヴァリス。はっと思い銃に着いたナイフを使おうと後ろを振り向く。
間に合うか。
「も〜俺らバディなんだからもう少し頼ってよね」
この能力はまさか。
目の前にはナイフを振り下ろすヴァリスの手が氷漬けにされている光景。
...それと、少し得意げに話すフレイの姿があった。
「...フレイか。助かったよ、ありがとう」
胸を撫で下ろすセツキとは別に、手を氷漬けにされたヴァリスは一溜りもない。
「くそっ!なんだこれは!!こんなの聞いてねーぞ!!」
その場を逃げようとするヴァリスの足元をすかさずフレイが氷で固める。
そこを体制を立て直したセツキの能力で打つ。
先程まで威勢の良かったヴァリスはぴくりとも動かなくなった。
「まったく、セツキはいっつも1人で突っ走るんだから」
フレイはもうっ!と不満を顕にしたが笑みが消えてはいない。2人の距離感が伺える。
おそらく先程のヴァリスが最後の1人だったのだろう。一般兵の誘導もあり街は少しずつ落ち着きを取り戻そうとしていた。
負傷者は恐らく5名。今から来る救援部隊が帝国軍の医療施設へ運ぶだろう。
「それより、報告書どうするかな...負傷者が少し多すぎるし、また上にあーだこーだ言われちゃうよ...」
フレイははぁ、と愚痴をこぼす。
「最近のヴァリスはチームワークを覚えてるからな、それならもう少し華翠の人員を増やして欲しいものだよ」
セツキはフレイの愚痴に乗るように小言を呟く。
もうじき夜も老ける。今日の任務はまだ終わりではない。
夜が深くなるにつれヴァリスの活動も活発化する。
今夜もまだまだ気を抜くことは出来ない。
少しでも赤い血が流れないように。
赤い血が流れないように。
シナリオ▶︎小林キラ
スチル▶︎脳髄 えんふぃ 紫陽花 宮 小林キラ